そして従業員がいなくなった・・・の場面に遭遇した件

私の数少ない顧問先がどえらいことになった。

 

まあ財務状況がよくないことはわかっていたのだが、決定的な場面に出くわしたのであった。

 

 

朝、社長から電話がかかってきた。

「会社を清算することに決めた。あんたのところで何ができるか教えて」

 

寝耳に水とはまさにこのこと。今日は別の予定があったが、急きょすっとばして会社に訪問することに。

 

私は社労士なので、破産とか清算とか詳しいわけじゃないけども、できることとすれば解雇となる従業員の離職票作成、社会保険喪失、労働保険の確定申告などの分野でしかない。

私の提案としては、会社を続けるのであれば、どっかから金を借りるしかない。それができなければ民事再生や清算するしかないですよ、と、ごく当たり前のことしか言うことはできなかった。

 

小一時間話すと、「私は清算じゃなくて、今後もやっていくつもりだ」と、電話で聞いた話とは別の話となった。

 

後ろで聞き耳を立てていた従業員の方々が全員こちらにやってきて

 

「社長!朝と話が違うじゃないですか!!」

 

ここまでは予想はしてなかった。

どうや2か月給料が遅配しているようだったのだ。

 

従業員の方も生活があるので、もう背に腹は代えられないということで、もう社長に最終通告をしたのだった。

 

「解雇扱いにしてください!もう我々は生活ができんのですよ!」

 

まあ従業員さんは間違っていない。

皮肉にも私も過去、給料遅配の経験があり(そのきっかけで社労士を目指そうと思った)、気持ちは非常にわかるのであった。

 

労働者はこういう状況になったら、どうやったらいいのかいろいろ調べる。そして辞めるものは早期に辞め、最終的に長く勤めていた者たちが残っていく。まさに私が6年前に見た光景と一緒だ。

 

こんな状況の中で、「失業給付が~」なんて話をしようと思ったら、

「それはもういろいろ調べたからわかっとる!とにかく解雇にしてくれ!」

 

と、なぜか私に食って掛かるような言い方をされるのだった。

 私も一応プロでやっているので、

 

「解雇はあくまでも会社の意思になるので、社長がどうするかということになる、本来はどういう形であれ、ご自身で辞める決断をされた場合は、自己都合退職という扱いになる。ただし、辞めるにあたっては自己都合で辞めたとしても失業給付が優遇される制度がある。給料が2か月遅延した場合~」

 

そういう話をすることしかできなかった。

 

厳密な話をすると、今回は社長が解雇をするということを言っているのではなく、あくまで従業員が辞めるという意思決定をしたので、解雇にはならない、とまあ本人たちにすればなんとも納得いかないようだったが、その話はなんとか理解してもらった。

 

そして最終的には退職勧奨という形で落ち着いた。

 

本来は自己都合退職でよかったのだが、そうすると手続き上の問題で、給料が支払われなかった旨の証明がいることになり、少し面倒なことになる。年内には求職申込の手続きに行きたいということだったので、自己都合だと場合によっては失業給付の手続きが遅れる場合があるということを本人たちは言っていた。

 

まあ本来ならあくまでも自己都合で終わらせるのが本来の形なのだけども、多少なりとも私はシンパシーを感じていたのかもしれない。退職勧奨という形が一番良いだろう、そう社長に進言し、事なきを得た。

 

 

 

会社をたたむときは、従業員、債権者、あらゆるところから攻撃を受ける。

従業員とのやり取りというのは、下手したら債権者よりも嫌なやり取りなのかもしれない。

今回はまさか退職の話になると思ってなかったので、失業給付の資料などは持ってきてなかったのだが、失業給付の額、退職後の健康保険について(任継か国保か。国保の場合は軽減措置がある等)、未払い賃金立替払い制度について(事実上の倒産というのは労基署が判断する。夜逃げは対象だが、社長が続けるといっている以上は難しい旨)はきちんと説明できた。

 

こういうときは相手もよく調べているので、「社労士の癖に知らんのか!?」などとこういう場面ではよくあるようなセリフが飛び交うこともあるが、今回は聞くこともなかった。(今回の場合は、自己都合でも解雇でも失業給付は優遇される旨を説明をしたときに「あんた制度のこと知らんな?」となじられそうになったが・・・。)

 

きちんと説明することで、従業員の方はおおむね納得された様子だった。まあ、本来ははらわたが煮えくり返るような思いだったでしょうが、年齢層が高かったこともあってか納得していただけた。あとは離職票については速やかに発行するということを約束したのも、納得してもらった要素の一つであろう。

 

本来はこんな状態になれば、離職票すら会社は発行できないので、非常に手続きは難航する。しかしながら、我々のような社労士が間に入ることで、速やかにことが荒立たない形で終わらせることができる。

 

今回はこんな場面を事を荒立てることなく終わらせられて本当によかった。自画自賛だ。

 

まあこんな風になったら、社労士がいなかったらスムーズに進まないよってことは会社にも従業員にも理解してほしいですね!今回は社労士としてしかできない仕事。非常にやりがいはあった。

しかしながら報酬は発生しない(泣)

離職票も一気に書かなきゃいけないし、仕事が増えるんだけどね・・・。